あったかもしれないし、なかったかもしれない話
小学生の頃にあったかもしれないし、なかったかもしれない、もしかしたら夢だったかもしれない話がある。
小学五年生か六年生の高学年の頃に、恒例の保健体育の授業があった。
男子と女子が別々の部屋に集められて、コウノトリさんの盛大なネタバレをされる。コウノトリさんもキャベツ畑もなく、多少生々しい過程を経てお前らは産まれた的なことを説明される。コウノトリさんは何も運んでいなかったし、キャベツ畑も粛々とキャベツのみを生産していたのだ。
正直その時にそんな話をされても、当時その行為自体をスケベだと思えるほどの段階にもおらず、ただただ「はぁ……そうですか」としか言えなかった気がする。それが今では推しカプが並んでいるだけで「これ完全に(籍)入ってる」「これは挿入(はい)ってる」と言うようになったので世も末である。
授業が終わり、クラスに戻るとそれなりに教室内は浮足立っていた。
保健体育の授業のあとにありがちな風景だと思う。とりあえず覚えてたての単語を連呼してみたり、教科書に描かれた医学チックな性器のイラストでテンションの上がる男子がいたりとか、そんなものだ。
席に戻ると、隣のTくんの元気が無いことに気づいた。
彼はクラスの中ではいわゆる典型的な”お調子者枠”であり、こういった話題にはいち早く飛びついて「まったく、Tはしょうがないやつだな~(笑)」となるような奴だった。
意外とそういう下ネタはダメなタイプだったのか?いつもと違う雰囲気のTくんを黙って見ていると彼はぼそぼそと私にこう言った。
「あたしンちのさ……」
※当時Tくんと私は、あたしンちとボボボーボ・ボーボボにドはまりしており、月曜に読んだボーボボの内容で金曜日まで話題が持つという燃費の良さだった。
「あたしンちがどうかしたの?」
「いやぁ、みかんとユズのさ……」
やたら歯切れの悪いTくんが申し訳なさそうに、
「あの両親もああいうこと(さっき保健体育の授業でやったこと)してんだなと思って……なんか、そうなんだって……」
Tくんは制作陣の考えていないところまで深読みして行間を読んで勝手に傷つく腐女子みたいなことになっていた。
それを言ったらほとんどすべての家族モノはおしまいである。そういうのは暗黙の了解で、そこ(子作り)にフォーカスを当てた作品でないことを自然と読者も理解していないといけない。
保健体育はTくんに性知識を与え、そして何かを奪っていった。
その時私はTくんになんて声を掛けるべきだったのか。
もしタイムマシンで当時に戻れるなら、私はTくんにふたりエッチを薦めるだろう。(そういうことしかしてない漫画だから)
でもたぶんそうじゃない、そうじゃないんだ。ふたりエッチではTくんの純情は刺激出来てもTくんから失われたものを埋めることはできない。
こうしてTくんと私が安心して読める漫画がボーボボだけになった。
(たいして問題は無かった)
それから間もなく、私は書店でミスフルのアンソロを単行本と間違えて購入してしまい(よくある)、「これって男同士でも出来るの?」ということに気付いてしまうが、それはまた別の話。